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NATIONAL COLLEGE OF NURSING JAPAN

患者さんの人生に深く関わる – 看護師としての成長と発見

患者さんの人生に深く関わる – 看護師としての成長と発見

卒業生

国立国際医療研究センター国府台病院 勤務

Q. 現在、国立国際医療研究センター国府台病院に勤務されていると伺っておりますが、まず最初に、看護師を志したきっかけを教えてください。

私が看護師を志したのは中学生の頃にさかのぼります。当時から子供とかかわる仕事に強い関心を持っていて、保母さんや幼稚園の先生になることに魅力を感じていました。

一方で、もっと幅広い年代の方々とかかわることのできる看護師という職業にも興味を抱いていました。また、祖父母が入院した経験があり、そのことも看護師を目指すきっかけの一つになりました。国立看護大学校に入学した頃は、特に小児科に関心があり、小児看護に携わりたいと考えていました。

Q. 小児科に興味を持ちつつ、なぜ精神科看護の道を選ばれたのでしょうか。

国立看護大学校の3年生になると、様々な病棟で実習を行います。楽しみにしていた小児科の実習で、病気と闘う子どもたちの姿を目の当たりにし、自分には支えきれないかもと感じることがありました。実習を通して、保育園や幼稚園にいるような元気な子供のイメージとは異なる現実を目の当たりにし、心理的な負担の大きさを実感したのです。

その後、精神科の実習で妄想や幻聴のある患者さんを担当する機会がありました。患者さんは落ち着いて会話ができる一方で、ところどころに妄想の話が入り、ちぐはぐな内容になっていくのですが、妄想の世界では楽しそうに話されていました。授業で疾患を学んでいましたが、教科書だけでは分からない患者さんの発言や行動に興味を持つようになりました。

また、精神科における看護師の役割についても考えさせられました。他の領域の実習では、身体管理や日常生活の介助など、目に見えるケアが中心でしたが、精神科では散歩しながら患者さんの思いを引き出したり、症状悪化時の対処法を一緒に考えたりと、目に見えない形での援助が多いことに気づきました。

 

Q. 精神科実習で印象に残ったエピソードを教えてください。

プロセスレコードという、患者さんと自身の会話を書き出して分析する記録方法を用いて、実習を振り返る機会が印象に残っています。

プロセスレコードを通して、患者さんがその時どのような思いを抱いていたのか、そして自分自身がどう感じていたのかを臨床教員の先生が引き出してくださり、丁寧に振り返ることができました。そのプロセスの中で、自分の考え方の癖にも気づくことができたのです。

精神科看護において、患者さんと向き合う前に、自分自身と向き合うことの大切さを学びました。自分の価値観や先入観に目を向け、それを理解した上で患者さんと接することで、より良い関係性を築くことができるのだと気づかされました。

実習中に受け持たせていただいた患者さんは、入院当初に比べて徐々に生活能力が向上し、最終的には退院されました。実習での学びが、患者さんの回復の一助になれたのではないかと感じ、大きなやりがいを感じました。

Q.就職される病院はどのように選ばれたのですか。

精神科で働きたいと思うようになって、その頃は、国立精神神経センター(現:国立精神・神経医療研究センター)と国立国際医療センター国府台病院(現:国立国際医療研究センター国府台病院)の2つの病院が候補にあって、精神科だけでなく一般の診療科のことも経験したいと思ったので、私は国府台病院を選びました。

 

Q. 精神科看護のやりがいについて教えてください。

精神科看護の大きな特徴は、患者さんの日常生活に深く関わることだと思います。例えば、金銭管理のサポートや、買い物の仕方を一緒に考えるなど、他の診療科ではあまり見られない関わりが求められます。

また、患者さんの心の状態を言葉や表情から察し、寄り添うことも重要です。散歩に出かけながら会話を通して気持ちを引き出したり、体調が悪化した際の過ごし方を一緒に考えたりと、会話そのものが看護の力になるのが精神科看護の魅力だと感じています。

私たち看護師は、患者さんとの距離が近く、言葉を交わす中で一人ひとりの存在の大きさを実感します。医師には話しづらいことも、看護師になら打ち明けてくださる患者さんがいらっしゃいます。そのような信頼関係を築き、患者さんの個別性に合わせて多様な方法で力になれることが、精神科看護師の醍醐味だと思います。

 

Q. 精神科以外の患者さんとのかかわりについても教えてください。

現在私が勤務している病棟では、精神科の患者さんだけでなく、一般内科の患者さんが多く入院されています。特に高齢の患者さんが多く、一つの病気をきっかけに命を落とされる方もいらっしゃいます。

90歳を超えるご高齢の患者さんが誤嚥性肺炎を発症し、呼吸状態が悪化して入院されたことがありました。入院後の治療の中で体力が低下し、血圧が下がって昇圧薬を使用する場面もありました。結果的に、その患者さんは病棟で亡くなられてしまいました。

ただ、その患者さんにはご家族がたくさん面会に来られていました。息子さんや、お仕事の関係者の方も見えていました。亡くなる1週間前、ちょうど面会に来られた時に私が声をかけたところ、患者さんが目を開けてくださったのです。「今、目を開けていらっしゃいますね」と伝えたことが、ご家族にとって良かったと後から話していただきました。それが患者さんとの最後の面会になってしまいましたが、亡くなる前にお会いできて良かったとおっしゃっていました。

私は、患者さんやご家族にとって、できるだけ心残りの少ない関わりを心がけたいと思っています。「あの時こうしておけば良かった」という後悔を抱かせないよう、一つひとつの関わりを大切にしていきたいと考えています。

面会の際に、患者さんが目を開けてくれたり、ご家族と会話ができたりするのは本当に嬉しい瞬間です。そのような何気ない瞬間も、患者さんやご家族にとっては大きな意味を持つのだと思います。精神科に限らず、あらゆる患者さんとの関わりの中で、一期一会の心構えを大切にしていきたいです。

 

Q. 現在は副師長をされていると伺いました。仕事内容と、仕事と育児の両立について教えてください。

現在は副師長として、様々な役割を担っています。師長不在時には師長の代行を務め、病棟スタッフのマネジメントを行います。また、委員会活動や病棟内の係活動の調整なども行います。師長が在席している時は、一スタッフとして患者さんを受け持ちながら、新人看護師や中途採用者の教育・サポートにも携わっています。

仕事では、部署内外での調整業務が多くを占めます。スタッフの意見をまとめ、方針を統一したり、他部署との連携を図ったりと、円滑なコミュニケーションを心がけています。一方で、私自身はスタッフの様々な考え方を尊重する立場であり、意見の相違がある場合にそれを調整するのに苦慮することもあります。

プライベートでは、2人の子育てをしながら時短勤務で働いています。フルタイムで働いていた頃とは異なり、限られた時間内で仕事を終えなければならないため、より緊張感を持って業務に取り組んでいます。患者さんやご家族と向き合う時間が限られる分、一瞬一瞬を大切にしたいという思いで日々奮闘しています。

現在の職場には、私を含め4人の時短勤務の看護師がおり、子育てしながら働くことが当たり前の環境になりつつあります。看護師だけでなく、他のスタッフも協力的で、働きやすい職場だと感じています。私自身、2回の産休・育休を取得しましたが、仕事を辞めるという選択肢は考えませんでした。むしろ、育休中は看護師として働くことへの思いを再確認する機会になったと感じています。

Q. 今後の展望を教えてください。

まずは、自分が所属する病棟をより良い環境にしていくことが目標です。副師長という立場を活かし、スタッフ一人ひとりがやりがいを感じ、自分の思いを実現できるようサポートしていきたいと考えています。スタッフが患者さんとのかかわりを楽しめるようになれば、それが患者さんの満足度の向上にも繋がると思っています。

また、臨床教員としての経験を活かし、実習生が充実した学びを得られる環境作りにも力を入れていきたいですね。実習では、大学の先生方や病棟からの要望など、様々な課題が課されるため、学生には大きなプレッシャーがかかります。過度な緊張を強いることなく、落ち着いて実習に取り組める雰囲気を大切にしていきたいと思います。

Q.これから看護を志す後輩にメッセージをお願いします。

近年は、コロナ禍の影響で十分な実習経験を積めないまま看護師になった方も多くいらっしゃいます。このような大変な時代に看護の道を選んでくれたことをうれしく思います。

患者さんとのかかわりがやりがいに感じられるよう、先輩看護師として長く寄り添っていけたらと考えています。これから看護師を目指す方々が、希望を持ってこの道を歩んでいけるよう、微力ながらサポートしていくことが私の役割だと感じています。